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2011年4月

2011.04.20

診療所 .

 物を大切にしない人は、人も大切にしないと思っています。


 さんざん休んだ挙げ句、いまなら東北の津波被害の記事を載せたいところなのだけれど、先日、丸善丸の内本店で開催されていた、セーラーのペンクリニックへ行って感激したので、その記事から。


 万年筆のセーラーは、百周年だそうで「万年筆国産化一〇〇年―セーラー万年筆とその仲間たち」という本を読んで、万年筆の調整をおこなっていることを知って、じつは大事に使っているのだけれど、どうも使い心地がわるい万年筆を診てもらいたいと思っていた矢先に、東京でクリニックが開かれると知り、早速行ってきました。高校の入学祝いに母にもらったモンブラン・マイスターシュテュック416を持って。


 セーラーのペンクリニックは、セーラー製品じゃなくても見てもらえるのです。

 高校生の僕には、うまく万年筆を使いこなすことができず、はじめから書きやすいものではないなと感じていました。その後、親友から美術学校の卒業か二十歳の祝いかでパーカーのソネットという万年筆をもらって、そちらはなかなか良い使い心地で、同じパーカーのブルーブラックのインクを入れて時たま使っていました。

 モンブランにはブラックのインクを入れていたので詰まりやすかったのかも知れず、子供だったので筆圧が強くてペン先が変になってしまったのかも知れません。


 僕はもともと使い捨て製品が好きではないのですが、高級品やブランド品が好きなわけでもなく。ただ勿体ない、愛着がわかないところが厭なだけなのですが。

 最近になって、なるべく万年筆を使うようになりました。

 これはなにも、スローライフだとかエコロジーなんていう流行に乗っかってではなく、便利で忙しない世の中で、ちょっとくらい不便で面倒くさいことがあった方が良いのではないかなと思って、眠っていた万年筆を引っ張り出して、掃除して使い始めたのです。

 ところがいつも使っていると、そう不便ではないし、逆にインクや紙にも凝ってみたいなとハマってしまいました。パーカーは、携帯していつでも使って、モンブランは家でじっくりと、といった感じで。

 ところがモンブランは、インクをレーシンググリーンに代えてみたのだけれど、やはり書き出しがかすれたりしてどうも乗りがわるいままでした。

 しかも、いま同じ物を買おうとしたらビックリする値段なので新品なんか買えません。

 それにこれは母からのプレゼントなので、なんとかこれを使いたい。


 そこでペンドクターです。


 やはり他社製品なので少々気が引けながら受付に行ったのですが、全く問題なく受け付けてくれました。

 丸善の文具売り場フロアーの一角に、机を出して白衣姿のドクターが二人並んで座っていて、すでに二人とも応対中で、その他に二人くらいが待合の椅子に座っていました。

 年配の方のドクターが、本にも載っていた万年筆の伝道師、川口明弘さん。いかにも堅気な感じで、調子が悪いから診てもらうのだけれど、調子を悪くしてしまった自分がちょっと恥ずかしい気がします。


 けれども誰だって病気や怪我はしますし、大事にしている子供やペットもなります。経験を繰り返して、成長していくものです。道具も、はじめからなんでもわかって、使いこなせるなんてことは、なかなかありませんが、人とちがって自分で直ってくれることはないので、致命的にこわれてしまった場合は専門家にたのむしかないですね。僕たちも、寐ているだけじゃ治らないと思ったら、医者にかかりますよね。だから、ペンドクターなんですね。


 僕の担当は、伝道師ではなく若い女性のドクターでした。

 書き出しでインクが出ないことが多いことや、購入が二十年以上前で、しばらく使っていない時期があったことを伝えました。

 まずは紙の上にペンをすべらせて、時計屋さんや宝石屋さんが使うようなルーペでペン先を確認して、先を押さえたりヤスリで磨いたりを繰り返していきます。

 おどろいたのは、紙の上にペンをすべらせると書きましたが、実際にペンを掌で支えただけで引いてすべらせるのです。最初は、三回に一回くらいしか線が引けなかったのが、調整していくうちに三回とも書けるようになっていきました。

 使っているからいまは出やすくなっているというのではなく、明らかに線が均一で、ほんの少し太くなって、万年筆が元気になっていくのがわかりました。


 感動です。


 お礼を言って立ち上がると、

「大切に使ってください」

 と、川口ドクターに声をかけていただきました。

 大切にはしていたけれど、大切に使っていなかったのだなと思いました。

 万年筆は、使えば使うだけ良くなる道具だそうです。しかし、自分勝手に使ったのではダメなんですね。友人関係や夫婦関係みたいです。


 大切に、使います。

 もう、この万年筆でなにかを書きたくてたまりません。だれかのところに手紙が届くかも知れません。この記事を手書きで載せられないのが残念です。

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